模型が語る「エネルギーとよろこび」

 会場に足を踏み入れた瞬間、目の前に広がる圧倒的な模型の数。シニアグラスをかけてよく見てみると、小さなイスや本棚、自転車や洗濯物まで、かわいらしい手づくりのミニチュアがぎっしりと並んでいます。作成者はさぞ楽しみながら作ったんだろうなと、昔の自分を思い出しながら想像しました。

 TOTOギャラリー・間で開催されている「JOY in Architecture」の中川エリカさんは、西田司さん率いるオンデザイン出身の新進気鋭の建築家です。「ヨコハマアパートメント」は衝撃的な作品で、名前が記憶に残っていた建築家でした。2014年に独立したばかりで、もうこの場で展覧会を行うとは、現在最も勢いのある若手建築家のひとりといって良いでしょう。

 いきなり20分の1,30分の1といった大きなスケールの模型を用いて、建て主との初回打合せをするというのだから驚きます。段ボールやバルサ材という粗い素材の模型を使いつつ、相手の要望やイメージをその場でザクザクとハサミで成形したり、付箋を用いてメモしたりするようです。対話の様子やハサミを入れた跡が模型のあちこちに残り、それがまた設計プロセスのエネルギーを表現していました。

 予備知識なしで無しで訪問した中川エリカ展でしたが、初心に返る必要性を感じた展覧会でした。建築模型を作ることの意味は、きれいに飾るためでもなく、施主に差し上げるためでもありません。ボリュームを確認したり、バランスをスタディしたり、シークエンスを検討したりと、建築空間の質を高めるためのプロセスなのです。我々も、もっともっと模型を作っていこうと思いました。

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