逆さ富士 静岡県富士山世界遺産センター

「逆さ富士、そう来たか!」
静岡県富士山世界遺産センターのコンペ当選案を見て、思わずうなった記憶がよみがえります。坂茂氏の設計によるこの建物は、大胆な逆円錐のデザインが前面に張られた水盤に映ると、富士山に見えるように考えられています。

逆円錐型の建物を逆さに見せるたの水盤は人工的な池でした。この大事な舞台装置としての水盤は、鏡としての役割と共に、周囲のごちゃごちゃとした環境から切り離す緩衝体としての役割も持っています。地元のヒノキを使用したという木格子は、近くで見ると大迫力。下の方は密に組まれ、上に行くにしたがって広がっていく構成は、昔の登山者の編み傘から発想したのかもしれません。

内部には193mのらせん状の展示スロープがあり、展示を楽しみながら富士山の疑似体験ができるようになっています。らせんスロープを内部に入れるために逆円錐にしたと考えれば納得もできますが、「直径17mのジオラマを展示する」というコンペ要項条件を坂茂氏は大胆にも無視し、スロープの疑似登山が主要な展示であるとして置き換えたそうです。

逆円錐型の構造の実現は、東海地震が懸念される地域において難しい課題でしたが、構造設計を担当したARUPは、ラチス状の鉄骨と中央のコア、及び外周の鉄骨柱を活用してその難題を解決しています。残念ながら、逆さ富士の木の格子は、仕上げとしてのデザインでした。

しかし、外に出てみれば微笑ましくも、家族連れが一生懸命、逆立ちしながら写真を撮っていました。インスタなのかTikTok向けかは分かりませんが、SNS上で発信するために撮影していたに違いありません。地域の人たちにとっても観光客にとっても、写真撮影したくなるような圧倒的なインパクトのある静岡県富士山世界遺産センター。あらためて、坂茂氏の力量に脱帽しました。

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