住宅設計において、ファサードは常に悩ましいテーマのひとつである。
外観としては、開口部をできるだけ整理して美しく見せたい。
しかし、内部からは自然光を多く取り込みたいという要望が出る。
加えて、室外機や雨どいをどう隠すか、どんな素材を使うか、プライバシーの確保、
そして全体のデザインなどなど、調整すべき要素は多岐にわたる。
また、ありきたりの住宅の外観にはしたくない、という思いもあった。
当初は目隠し素材として、以前にも使ったことのある「有孔レンガ」を想定していた。
タイルとの相性も良く、メンテナンス不要で高級感もある。
視線を遮りつつ、夜には照明の光が柔らかく漏れ、趣のある雰囲気を演出できる。
しかし、建て主からは「虫が巣をつくる」という理由でNGが出た。
鵠沼海岸という自然豊かな立地において、虫の多さは確かに無視できない問題だった。
次に考えたのは木製ルーバーだったが、これはありきたりで、なおかつメンテナンスが必要になる。
それらを回避し、もう少し「攻めた」素材を探した結果、目に留まったのが押し出し成形セメント板だった。
施工段階では、コスト削減のためにこの目隠しパネルを取りやめるよう強く提案されたが、
ここは設計者として譲れない部分だった。
内部空間は建て主の好みに委ねるにしても、外観は設計者が責任を持つべき領域であると考えている。
最終的には、押し出し成形セメント板の仕上げに、アイカ工業の「ジョリパット」を採用。
マットで風合いのある質感が得られ、汚れにも強い。
タイルとの相性も良く、全体として落ち着きと品のあるファサードが完成した。
また、パネルの配置は1階と2階でずらすことで単調さを避け、立体的なリズム感を生んでいる。
これにより、室外機や竪樋などもすべて見えないように処理されている。
住宅のファサードには、開口部の位置や大きさ、構造、採光、眺望、視線、設備など、多くの要素が絡み合う。
その複雑さを整理するうえで、「バッファーゾーン(中間領域)」の形成は極めて重要である。
こんも中間領域は、内部と外部を緩やかに隔てることで、視線のコントロールや日射の調整、
プライバシーの確保に加え、心理的な安心感ももたらす。
また、屋外の喧噪や自然環境との緩衝空間として機能し、建物の顔としての印象に深みを与える。
つまり、実用性とデザイン性の両面から大きな効果が期待できるのである。
この住宅では、そのバッファーゾーンを形成する素材として、たまたま押し出し成形セメント板を採用したが、
結果的に木の受精と意匠性の両立に寄与し、個性と品格のある外観をつくることができたと感じている。