美術館をワクチン会場とする発想

広いギャラリー空間で、ゆったりと現代絵画を鑑賞しながらワクチンの注射を打つ人たちがいる。
2021年4月、イタリア・トリノ近郊のリヴォリ現代美術館の3階ギャラリーでの光景だ。
リヴォリ現代美術館は、世界で初めてワクチン接種会場を設置した美術館である。
美術館をワクチンの接種会場に転用するという発想は、一体どこから生まれるのか。

非常事態において、アートは「不要なもの」として片付けられがちである。
人の生命や安全、衣食住の問題に比較すれば、アートの優先順位は低い。
しかし、不自由な生活を長く強いられ、心に何らかのストレスを抱えている人びとにとって、
アートに触れることはアートセラピーであり、生きる希望や勇気など「心のケア」に役に立つ。 

リヴォリ現代美術館理事長のFrancesca Lavazza氏は、美術館をワクチン接種会場に開放することで、
地域社会に役立つサービス機関であることを発信し続けている。
実際に、美術館はスペースが広くバリアフリー設備が整い、リラックスできる心地よい環境が形成され、
ワクチン接種会場にうってつけだ。

この美術館、もとは廃墟の歴史的建造物を美術館に再生したものだ。
廃墟の痕跡は今なお残され、スチールやガラスで増築した部分とは一線を画している。
レンガむき出しの歴史的な部分とガラスと鉄による現代的な部分が対比をなす。
異なる歴史が共生する空間はアーティストをも刺激する。
建物をワクチン接種会場とする発想は、ごく自然に浮かんだにちがいない。
リノベーション建築は、そうした固い頭を柔らかくする力を持っている。

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