文房具の銀座伊東屋が変化しています。いや、もはや「文房具の」という枕詞が不適当なほど、進化していると言って良いでしょう。
かつての銀座伊東屋は、選び抜かれたデザイン文具や特殊な紙、そして無い文具はないほど多様で豊富な品揃えが特色の店舗でした。手前と奥に階段があり、所狭ましと置かれた棚のすき間を抜けて、上階からグルグルと見て回るのが楽しみだった記憶が残っています。しかし、新しい銀座伊東屋の1階は大きな街路のように抜けていて、脇には飲み物を売るカフェカウンターが置かれています。階高も高く、さながら細い路地のような空間でした。
中でも注目は、ビル11階に設けられたファーム(ビル内農場)でした。これまで銀座のビル屋上で蜂蜜作りの例があると聞いていましたが、文房具専門店がアーバンファクトリーを銀座の建物内で始めたとは驚きました。あいにく最上階のカフェレストランは閉鎖中でしたが、このファクトリーで収穫した野菜を用いて料理を提供しているに違いありません。
アーバンファクトリーは、環境保全やCO2の削減、あるいは自給率の向上という都市環境問題解決に向けて導入する企業も増えています。都会の限られたスペースでも多段式水耕栽培により効率的な生産ができ、年中、安定的に新鮮な無農薬野菜を供給することが可能です。環境保全に供するというメリットがあるだけでなく、建物内のCO2削減に大きな効果があり、何より、コーポレートアイデンティティを向上させることにつながると思われます。
私も近頃、社会的な課題に取り組むメーカーの商品を購入したり、地元で頑張っている事業者を応援して買い物したりするケースが増えています。いわゆる「エシカル消費」です。都会の限られたスペースで、サステイナブルな栽培方法を実現しながらアーバンファクトリーに取り組んでいる企業に対し、好印象を抱く消費者は、私の他にも多くいることでしょう。
商業の世界は、「モノ」を売る時代から「コト」を売る時代に移りつつあるといわれています。銀座伊東屋でも、体験教室や作り方講習会、文房具のアフターケアや、その人だけの記念品製作など、商品サービスを前面に出したお知らせが目立ちます。一流のバイヤーや専門ソムリエが選び抜いた品々を見ているだけでも楽しく、そこには選び抜かれた「憧れのライフスタイル」が見えてきます。
単なる文房具屋から、新たなライフスタイルや商品の付加価値を商う店舗へと進化した銀座伊東屋。建物が新しく建て変わっただけでなく、そこには、企業のこれからの意気込みが見て取れました。
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